分析センターは化学物質の研究と教育を行う目的で1973年に設立され,現在高速液体クロマトグラフ質量分析装置,ガスクロマトグラフ質量分析装置,フーリエ変換核磁気共鳴装置,X線小角散乱/広角回折装置,元素分析装置,飛行時間型質量分析装置,電子スピン共鳴装置,走査型プローブ顕微鏡,動的光散乱装置,顕微ラマン測定装置,熱分析装置,走査型電子顕微鏡を備えている。これら装置は化学物質の一般計測,構造解析,物性分析のための学内および学外の研究者が広く利用できるよう,分析装置ごとに講習を受けてライセンスを取得すれば自由に使用できる「ライセンス制」を導入している。また,委託研究,分析を通じて利用範囲の拡大を図るため,所有する分析装置の紹介や利用の手引を整備するとともに比較的安価な料金を設定し,学外との連携を強化している。
物質中の原子核がもつスピンを検出する装置である。液体ヘリウムで冷却した超伝導磁石によって作られる磁場の中に置いたサンプルに,ラジオ波(水素の場合400MHz,炭素の場合100MHz)のパルスを当て,その応答をコンピュータでフーリエ変換することによって解析する。化合物中の水素と炭素のつながり方がわかるので,有機化合物の構造決定のための重要な手法となっている。サンプルは重水素化した溶媒に溶かしたものを専用のガラス管に入れて測定する。2次元や緩和時間測定などの測定法があり,また,水素,炭素以外の多核測定や固体サンプルの測定も可能である。図1は,1H,1H-COSYスペクトルであり,通常の1次元測定では重なりあってしまうシグナルを分離して,化合物の構造を決定した例である。
ESR(電子スピン共鳴)の特徴は,対象物質中の不対電子(ラジカル)をESR信号として観測できることである。具体的には,磁性体,金属,無機化合物の錯体,高分子化合物および有機化合物中のラジカルさらには生体内のビタミン,補酵素中などのラジカルを観測することができる。これらESRを用いた観測では,試料の状態として気体,液体および固体をも問わないのが特徴である。さらに,センターに設置されているESRは-196〜+600℃の温度範囲で測定することもできる。図2は蛍光体(CaS)中のEu2+およびEu3+イオンのESRスペクトルを示したものである。蛍光体中のこれらイオンは微量であり,定量はできても価数を判断することはできず,従来発光色から判断していたが,図から明らかなように異なるスペクトルとして観測することができる。
小角・広角X線散乱装置は,回転陽極型X線管を有し,最大許容負荷電力18kW(60kV,300mA)強力型発生器に設置されている。小角カメラとしてKratky compact cameraを設置している。このカメラは,ラインフォーカス系の光学系としては寄生散乱が極めて少なく実験室系での装置として定評がある。測定レンジは,1〜100nm程度で微細構造,分子量,回転半径などを求めるのに最適である。また,このような長距離構造を調べることができることを応用して,高分子間の相互作用を明らかにする研究に用いられている。オプションとして,0〜70℃および25〜300℃の温度調節器があるので温度変化を伴う測定にも対応できる。広角散乱(回折)装置(WAXS)には,縦型のX線回折装置を採用し,完全自動で測定することが可能である。粉末やバルク状の試料に対し結晶構造の決定,定性分析ができる。また,JCPDS(Joint Committee of Powder Diffraction Standard)に登録されているピークをオンラインで検索し試料の同定が可能である。図3はカルサイトおよびアラゴナイト(炭酸カルシウムには3種の変態,カルサイト・アラゴナイト・バテライトが存在する)のX線回折図形である。このX線回折パターンをもとにしてカルサイト中のアラゴナイトの定量を行うことも可能である。
MALDI-TOF MSは試料と混合したマトリックスと言われるイオン化促進剤にレーザーを当てることで間接的に試料をイオン化し,このイオンの飛行時間を測ることで試料の分子量を測定する装置である。この装置は高分子量の化合物や熱に対して不安定な化合物の分子量測定に威力を発揮し,分子量数十万までのタンパク質やDNA,糖などの生体関連物質,分子量数万までの合成ポリマーなどの分子量を正確に決定することができる。図4に合成ポリマーであるポリエチレングリコールのMALDI-TOF MS測定結果を示す。分子量1000付近から2000付近にかけて,ポリマーの分子量がモノマーの分子量44ごとに繰り返す多数のピークとして正確に測定されている。
分析センター内事務局
TEL&FAX:03-3259-0432